―― 記録の客観性と、匿名性に守られた行政担当者へのメッセージ

本サイトで公開している各種の公文書(保有個人情報開示決定通知書、労基署相談票、その他の行政記録)において、行政側の担当者・決裁者の氏名部分にはマスキング処理を施しています。

この処理の意図と、行政担当者の方々に向けた当サイトの見解をここに記します。

1. 個人情報保護法が作り出した「行政の安全圏」

当サイトが公務員の氏名を伏せている法的な根拠は、個人情報保護委員会が公式に定めた見解(行政機関等編 FAQ Q5-4-6)1にあります。 同委員会は、公務員の職務遂行に係る情報に含まれる氏名について、「開示した場合、当該公務員等の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると位置付けられており、不開示情報から除外されていない(不開示となる)」と整理しています。 すなわち、公権力を行使し、一人の労働者の人生を左右する決裁を下す公務員であっても、 公務員の氏名は、職務遂行情報に含まれる場合であっても、職名や職務内容と同じように当然に公開対象となるわけではなく、個人情報としての保護が考慮されます。

2. 「匿名性」がもたらす行政判断の検証可能性の低下

しかし、こうした「公務員の氏名も法的に保護される」という匿名性の担保こそが、本件事案における労働行政の異常な「判断の留保」を誘発する一因になり得ると言わざるを得ません。 このような制度運用の下では、個々の担当者や決裁者の責任の所在が外部から見えにくくなり、結果として行政判断の検証可能性が著しく低下します。

公権力を行使しながら、その結果に対する個人の責任の所在は匿名性によって保護され得る。この制度のアンバランスさ(構造的欠陥)が、行政による判断の留保を容易にする土壌を作り出していると評価できます。当サイトがあえて担当者名を伏せているのは、この現行の法制度に則った適法な配慮に過ぎません。

3. 行政担当者へ向けた「証拠保全」の事実

名前を伏せていることは、行われた行政対応の客観的記録が消滅したことを意味するものではありません。

企業の不適切な処理を前にして、法令に基づく独自の権限行使が十分になされず、各機関が判断を留保し続けた結果、一人の障害者雇用労働者の強行法規による保護の機会が失われました。開示された各種の行政文書の決裁欄には、現場の担当者のみならず、署長や部門長を含めた多数の管理職員の決裁印が連なっている事実です。これは、企業への指導の放棄や判断のたらい回しが決して担当者個人の一存ではなく、行政組織全体として連帯して承認された「客観的記録」に他なりません。 匿名性の下で行われたこうした組織的な不作為や判断の留保が、結果として、労働者の権利救済を困難にする行政運用の一部として機能した可能性は否定できません。

マスキング処理を施していない実名と多数の決裁印が記載された公文書の原本は、公開資料とは区別して、検証可能性を確保するための内部資料として、当サイトの管理下で安全かつ恒久的に保管しています。この制度的機能不全が今後も放置され続けるのであれば、これらの完全な記録が将来、どのような形で社会的な検証の対象となるかは未定です。

本サイトをご覧になっているであろう関係機関の担当者の方々には、ご自身の決裁印が押された書類が、現在もこのアーカイブの奥底に客観的証拠として保全され続けているという事実を重く受け止めていただきたいと思います。そして、自らの権限行使の不十分さが誰の命綱を切り捨てたのか、公務員としての矜持に照らし合わせ、静かに顧みていただけることを願っています。

Footnotes

  1. 個人情報保護委員会https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq7-q5-4-6