診断書の受理拒否と無視(原告P9の事例)
医師の専門的知見である「診断書」を会社側が独自の判断で軽視・拒否する姿勢は、過去の事案においても明確に記録されています。
判決文に記録された事実関係
原告P9は、切迫流産の恐れから立ち仕事・力仕事の多い業務からの配置転換を申し出たものの拒否され、その後「頸肩腕症候群(後に労災認定)」を発症し休業を余儀なくされました。 その後の職場復帰のプロセスにおいて、以下の事実が確認されています。
- 医師によるリハビリ勤務の指示と会社の拒否 主治医より、回復のための措置として「半日勤務(リハビリ勤務)」を要する旨の診断書が発行され、会社に対してその実施が要請されました。しかし、会社側はこれを認めず、診断書に基づく就労環境の調整を拒否しました。
- 配置転換要望の却下 同原告が妊娠中であった際にも、負担の大きい手配業務からの業務変更を要請し「要望書」を提出しましたが、担当課長代理はこれを拒否し、継続して該当業務を担当させました。
構造的共通点と「強行法規適用の回避(潜脱)への発展」
小山支社の事象において、治療を優先したい旨を記した診断書が提出された際、会社側が「有休消化中(連続での傷病欠勤とならない)であるため不要」という独自の解釈をもって診断書を返送した対応は、過去の事案(P9の事例)と照らし合わせることで、 「会社にとって不都合な医師の診断書を、独自の社内ルールを盾にして物理的に排除する」という組織的な対応の共通性 を浮き彫りにしています。
しかし、本件が過去の事案よりも法的に極めて重大な問題を孕んでいるのは、その 「目的」と「結果」 です。
過去の事案(P9)における診断書の受理拒否は、就労配慮の義務を免れ、過重な業務を継続させることによる「退職への誘導」を目的としたものでした。一方、本件において会社が診断書を突き返した目的は、単なる配慮の拒絶にとどまりません。診断書を受理して社内記録に「傷病欠勤」の事実を残してしまえば、後にそれが労災と確定した際、労働基準法第19条が定める「療養中の解雇制限」という絶対的な強行法規に抵触し、退職処理自体が違法となってしまうからです。
だからこそ会社は、「有休消化中だから診断書は不要」という事実とは異なる独自の理由を立て、国家が禁じる解雇制限の適用を合法的に回避(潜脱)するため、極めて重要な客観的証拠である診断書を労働者に返送しました。
これは「医師の専門的判断の軽視」という段階をとうに超え、 「自社の退職処理を適法であるかのように外形を整えるための、客観的記録の意図的な排除」 としての性質を持ちます。過去の裁判事案から続く「診断書の排除」という組織体質が、本件においては国家の強行法規の適用を免れる手段として用いられており、コンプライアンス上の重大性が一層増していると客観的に評価できます。