本件は、労働基準法第19条(解雇制限)が適用されるべき事案です。

労働基準法19条は、業務上負傷・疾病による療養休業期間中およびその後30日間の解雇を原則として禁止する強行規定である。もっとも、形式上「合意退職」「自然退職」「休職期間満了退職」とされている場合であっても、その実質が解雇制限を潜脱するものである場合には、同条の趣旨に照らして無効と評価され得る。 住友生命側の弁明を記録の公平性の観点からあえて記録しています。

「早期の退職要望」という説明と客観的記録の乖離

—— メールに記録された「無給・自腹」の訴えと退職処理の経過

住友生命は、労働者本人の同意がないまま一方的に退職処理(自己都合退職)をした経緯について、労働組合宛ての公式回答書1において次のように主張し、自らの対応の妥当性を主張しています。

【住友生命勤労部からの回答】 「当時、〇〇氏から早期の退職要望を受け、丁寧に対応しており、メールにて退職日を含めて双方でやり取りしています。」1

会社側は、「労働者本人からの早期の退職要望があり、それに対して丁寧に対応した結果の合意退職である」と主張しています。

しかし、会社が「要望を受けた」とする当時の実際のメール履歴と対比したとき、 この会社側の説明と客観的記録との間に、重大な事実認識の乖離が存在することが確認できます。

証拠が示す「退職要望」の具体的な内容

会社が「要望を受けた」とする2021年7月20日付の労働者から支社総務部長宛てのメール原文には、退職を申し出るに至った具体的な理由が次のように記されています。

【2021年7月20日付 被災者から総務部長宛てのメール】 「退職日につき、設定いただけますよう、お願いいたします。」 「(中略)これ以上、部長を筆頭に、無給で、自身の生活時間を削り、自腹をきり、この会社に尽くすことができなくなりました。

会社側の解釈と客観的記述の不整合

上記のメールが示す通り、労働者が退職日を設定するよう求めた背景には、「無給労働」や「自腹購入」といった、労働環境に関する極めて深刻な訴えが含まれていました。

会社側がこのメールを受領し、それを単なる「早期の退職要望」として解釈し処理を進めたという事実は、法的に以下の2つの課題を示しています。

① 労働環境に関する「具体的な告発」への対応の不在

労働者から「無給で働かされ、自腹を切らされている」という、労働基準法違反(賃金全額払いの原則違反等)に直結する極めて重大な告発をメールで直接受けておきながら、会社側がこれに対して速やかに事実確認や是正の調査を行った形跡は、当時の通信記録からは確認できません。

② 原因の捨象と「結果」のみに基づく処理

労働者は、自らが置かれた労働環境の限界を理由として退職を申し出ています。しかし会社側は、その原因部分である「無給・自腹」という訴えについては評価を行わず、結果である「退職日を設定してほしい」という一文のみを根拠として、「労働者からの早期の退職要望」として退職手続を進めていることが確認できます。

結論:社内説明と実態の齟齬

住友生命の「早期の退職要望を受け、丁寧に対応した」という主張は、客観的記録と照らし合わせると、「労働者からの『無給・自腹』という労働環境に関する悲痛な訴えに対し、十分な原因調査を行うことなく、退職の申し出という結果部分のみをもって処理を進めた」という事実経過へと反転します。

労働者から発せられた違法性の指摘を含むSOSを、単なる「自己都合による退職要望」として処理し、それを事後的に「丁寧な対応」と公式回答で評価している事実は、同社の労務管理およびコンプライアンスの実効性において、極めて重大な疑義を残す客観的記録となっています。

この2021年7月20日メールに対する反応:2021年7月26日メールの解説

Footnotes

  1. 住友生命勤労部_第二回回答書