―― 行政事件訴訟法の死角と、完成された「やらず逃げ」の構造
1. 放置される「強行法規違反の疑い」と、機能しない法執行
700日におよぶ就労不能という公的な労災認定。それほどの重篤な業務上傷病が存在するにもかかわらず、企業は「連続での傷病欠勤とならない」という独自の理由で労働者からの診断書を返送し、結果として強行法規である労働基準法第19条(解雇制限)の適用要件となる「傷病による休業」の記録を排除したまま、「事故欠勤」としての処理を行いました。
これほど客観的に法律の潜脱を疑わせる証拠が揃っていながら、なぜ労働基準監督署は「是正勧告」などの処分を下さず、「必要な対応は完了した」として処理を終結させることができたのか。その理由は、単なる行政の不作為というだけでなく、彼らを守る「法制度の死角」にあります。
2. 「処分」をしなければ訴えられないという特権
行政の違法な対応を正すためのルールである「行政事件訴訟法」。しかし、そこには決定的な抜け道があります。処分の取消しを求める抗告訴訟は、「行政庁の処分」が行われて初めて成立します(行政事件訴訟法第3条2項)。労働行政は、あえて「是正勧告(指導)」も「違反なしの認定」も出さず、「ただ何もしない(対応完了と宣言して放置する)」という選択をすることで、行政訴訟の対象となる「処分性」そのものを発生させず、安全圏に逃げ込んでいるのです。
3. 絶望的な自己責任モデルの完成
労働者には「行政に指導を義務付ける申請権」が明確に認められていないため、不作為の違法確認(行政事件訴訟法第3条5項)で行政を動かすことは極めて困難です。この「行政が動かなくても罪に問われない構造」を熟知している企業は、証拠があっても絶対に非を認めません。企業が強弁し、行政が安全地帯に逃亡した結果、労働者はすべての立証責任と費用を抱えて「民事裁判」という孤独な戦いへ放り出されます。
行政事件訴訟法 抜粋
