—— 時系列で見る、労働行政の完全なる機能不全 ——

本件における行政の機能不全は、ある特定の時期・特定の担当者だけが引き起こしたものではありません。 前年度の「労働局」によるたらい回しから、本年度の「ハローワーク」による5か月の放置1に至るまで、時系列を追って客観的記録を検証すると、行政機関が自らの不作為を正当化するために、段階ごとに「異なる事実の認否を避ける弁明」を使い分けていた事実が浮かび上がります。

1:労働局による責任のなすりつけ(前年度の障害者虐待通報への対応)

言い訳①:「労基署の報告を待ちたい(時間が掛かる)」 労働局の担当者(職業安定部)は、使用者による障害者虐待等の通報に対し、自ら調査・判断を下すことを避け、「栃木労働基準監督署の報告を待ちたい」と繰り返し、「時間が掛かる」という逃げの回答に終始していました。 しかし、労働者がこの件を栃木労働基準監督署に確認したところ、労基署側は「それは労働局の仕事だが、労働局へは労基署の立場からは言いにくい」と明確に回答しています。「労基署の報告待ち」という言い訳は完全な建前であり、実態は労働局と労基署の間で互いに責任を押し付け合い、事案を意図的に空転(放置)させていた客観的証拠です。 20221221労基署相談票

2:ハローワークによる管轄逃れと企業擁護(本年度:離職理由の5か月放置)1

前年度から続く行政の無責任な体質は、休業補償が打ち切られた後の2023年8月に行われたハローワークへの「離職理由の異議申し立て」に対する5か月の放置において、さらに悪質な言い訳へと変貌します。

言い訳②:「自分たちは雇用保険法のことしか分からない」 ハローワークの職員は、労働者が「労災による700日の就労不能や未払い賃金など、労働基準法上の問題(不法行為)が背景に存在している」と訴えたにもかかわらず、「職業安定所は雇用保険法に関することしかわからない立場である」と主張し、背後にある労働問題の実態認定から逃げ続けました。これは「労基署の管轄だから考慮しない(できない)」という、縦割り行政の死角を悪用した典型的な事実の認否を避ける弁明であり、この解釈の曲解によって労働者保護という本来の趣旨は完全に無視されました。

言い訳③:「退職者と連絡がつかなかったからではないか」 極めつけは、5か月間放置した末の2024年1月、ハローワーク担当者が発した企業側の勝手な代弁です。 労働者が「本人の離職願や退職届が一切提出されていないのに、会社が一方的に『自己都合』として離職票を発行したのはおかしい」と指摘した際、ハローワーク担当者は法に基づく職権調査を行うどころか、「(会社側が)退職者と連絡がつかなかったからじゃないですか」と、何の法的根拠もなく企業側の致命的な不備を推測で擁護しました。 これに対し、労働者が「この扱いは、住友生命への特別扱いか」と追及すると、ハローワーク担当者は一切の返答ができず沈黙しました。 「公式ルール」をも無視した、ハローワークによる企業擁護

3:自ら掲げた「好事例」との決定的乖離

厚生労働省が公式に発行している『賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集』には、労働基準監督署による「適正な指導の好事例」として、以下のような事案が紹介されている。

「会社は、始業・終業時刻を労働者がパソコン入力することにより把握し(中略)ていたが、監督署が本社を調査したところ、業務日報の記録やメール送信記録からは、入力された終業時刻後に業務を行っていたことが判明し、全社的に賃金不払残業が行われていたことが確認された。監督署は、確認した賃金不払残業に対して是正を勧告するとともに(後略)」(事例4より抜粋)

賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集

この資料が証明しているのは、労働行政において「PCのログ(自己申告)と実態に乖離が疑われる場合、メールや日報といった『その他の客観的記録』を自ら調査・照合して違法性を認定すること」が、行政本来の標準的な法執行プロセスであるという事実である。

しかし、本件事案における労働基準監督署の対応は、この自らが掲げる標準プロセスと完全に矛盾している。 労働者側から「PCログオフ後の業務の存在」と、「IDカードによる入退室記録等の客観的証拠の存在」が具体的に提示されていたにもかかわらず、行政は 「会社から記録を見せてもらえなかった」 として独自の調査権限を封印した。

啓発資料においては「隠された客観的記録を自ら調べて是正勧告を行った」と組織の成果をアピールする一方で、いざ大企業の否認に直面すると、その手法を容易に放棄して「対応完了」を宣言する。この行政対応の決定的なダブルスタンダードは、本件事案における「行政の不作為」が、知識不足や偶発的なミスなどではなく、事なかれ主義に基づく意図的な「判断の回避」であったことを、国自身の公開資料によって裏付けている。

結論

前年度の労働局は「労基署の報告待ち」と責任を転嫁し、本年度のハローワークは「管轄外」と実態認定を避け、企業の致命的な手続き不備に対しては「連絡がつかなかったから」と自ら進んで代弁する。 各機関が時期ごとに使い分けたこれらの「言い訳」の連鎖こそが、大企業のコンプライアンス違反を見逃し、被災労働者を長期間経済的に不安定な状態に追い込んだ行政の「責任消失構造」の正体です。

Footnotes

  1. 「5カ月の審査」の実態:ハローワークによる職権調査の不作為 2