―― 客観的証拠を黙殺した「障害者虐待」の隠蔽

■ 労災認定(就労不能700日)が証明する「会社の虚偽」

当初、住友生命は、被災労働者の負傷原因となった作業について「やらせていない」と明確に否認していました。しかし、労働基準監督署はその後の調査により、事故発生日を遡る形で「700日にも及ぶ長期就労不能の労災」を公的に認定しました。 労災が認定されたということは、国が「会社が否定していた業務が実際に存在し、それが原因で負傷した(業務起因性)」という客観的事実を確認したことを意味します。これにより、企業側の説明には明確な不整合が生じています。

■ 障害者雇用における「合理的配慮義務違反」と「経済的虐待」

本件は単なる労働災害ではなく、助成金を前提とした障害者雇用の事案です。 上肢障害を有する労働者に対して重量物の運搬を行わせていたという業務実態は、障害特性に対する「合理的配慮義務違反」が疑われるものです。さらには、労働基準監督署が調査の過程で確認している未払い賃金や、労災休業期間中の無給扱い(事故欠勤処理)といった事実は、厚生労働省の基準においても「使用者による障害者虐待(経済的虐待)」に該当する極めて重大な法令違反です。 実際、2021年7月14日の労基署相談票1には、初期段階から 「相談者自身も、本件(サビ残)は障がい者の経済的虐待にあたるものと認識しているが、」 と明確に記録されていました。

■ 「証拠がない」と強弁して処理を終了させた労働局の自己矛盾

しかし、障害者虐待の調査窓口である栃木労働局職業安定部(ハローワーク)は、この事案を「虐待の有無は確認できなかった(不明)」として行政処理を終了させました。 労基署によって「労災認定(業務起因性)」や「未払い賃金」という客観的証拠が国自身の手によって裏付けられているにもかかわらず、同じ労働局内の職業安定部が「証人や証拠が提示できず」と強弁して調査を打ち切ったことは、完全な行政の自己矛盾であり論理破綻です。さらに悪質なことに、栃木労働局は、この客観的事実を黙殺したまま、栃木県障害福祉課に対して「虐待の有無は確認できなかった」として実質的に「虐待なし」と同等の報告を行っていたことが判明しています。

■ 結論:行政の「判断停止」が大企業の助成金を守っている

本来であれば、労災認定という揺るぎない事実を前提として企業側の不整合を追及し、「障害者虐待」や「重大な労働関係法令違反」を認定した上で、全社規模での「特定求職者雇用開発助成金等の支給停止・返還」といった厳しい行政処分へと踏み込むことが想定される事案です。

しかし、労働行政は『裁量』の名の下に、不都合な証拠をすべて黙殺し、評価を「不明」としたまま行政判断を停止させました。 この 「行政があえて明確な違法性の判断を示さずに逃亡すること」 こそが、企業側に「行政から是正指導を受けていないから適切に対応している」と開き直るための正当性の根拠(お墨付き)を与え、結果として巨大企業を巨額のペナルティから守る『完成された隠蔽システム』として機能している状況が客観的に確認されます。

行政はしばしば「権限を行使するかどうかは行政の裁量である」という論理で自らの不作為を正当化します。しかし、過去の司法判断(大津地裁サン・グループ事件判決等)2は、この逃げ道を明確に塞いでいます。

判例によれば、行政が有している情報から労働関係法規違反による権利侵害を「認識し得る場合」において、権限を行使しないことが「合理的な判断として許される範囲を逸脱したときは、その不作為は国家賠償法上違法となる」とされています。

本件において、行政は自らの手で「労災認定(700日の就労不能)」を下し、「未払い賃金」の証拠を確認し、初期段階の公文書には「経済的虐待の疑い」を明記していました。すなわち、権利侵害を完全に「認識」していたのです。 それにもかかわらず、「証拠がない」と目を塞ぎ、処分を「不明」として終わらせたことは、もはや許容される「裁量」ではありません。それは、巨大企業をペナルティから守るために国家権力が意図的に行使した「違法な不作為」そのものです。


使用者による障害者虐待に係る対応部署決定通知

Footnotes

  1. :20210714労基署相談票

  2. 20030408-001.pdf