本件は、労働基準法第19条(解雇制限)が適用されるべき事案です。
労働基準法19条は、業務上負傷・疾病による療養休業期間中およびその後30日間の解雇を原則として禁止する強行規定である。もっとも、形式上「合意退職」「自然退職」「休職期間満了退職」とされている場合であっても、その実質が解雇制限を潜脱するものである場合には、同条の趣旨に照らして無効と評価され得る。 住友生命側の弁明を記録の公平性の観点からあえて記録しています。
—— 役場と本人の通信記録が証明する、離職票発行遅延の不可解なプロセス
住友生命小山支社において発生した、障害者雇用労働者の「700日の就労不能(左脊椎神経損傷等)」という重大な労災事案。
この事案において、退職手続きに必須となる「離職票」の発行が、退職日(2021年8月17日)から1ヶ月以上経過した9月下旬まで遅延するという事態が発生しました。会社側は「労働者から退職書類が提出されなかったため」と事務的な遅れであることを主張しています。
しかし、当時の客観的な記録は、労働者本人が受信した会社からのメールだけでなく、 第三者である自治体(壬生町役場)が直接会社から聞き取った記録 と、事後の会社の回答書を照らし合わせると、そこには合理的に説明不可能な決定的な矛盾が存在しています。
客観的証拠に基づき、離職票が遅延した真の理由と、退職処理の不自然な経過を検証します。
1. 会社側の事後の主張:「書類未提出」と「自己都合退職の成立」
会社側(勤労部)は、労働組合等からの要求に対する回答書において、離職票の発行が遅延した経緯について次のように主張しています。
【会社の主張(勤労部回答書)】 「弊社から送付した退職書類に関しては同年8月23日に受取拒絶で返送されてきております。その後、直接の連絡が取れず、退職手続きを留保し続ける場合、健康保険の手続の不能など氏が不利益を被ることとなるおそれもあったことから、やむなく(中略)退職処理を行ったものです。なお、離職票に関しては(中略)自己都合退職と判断して発行申請したものです。」(引用:住友生命勤労部第二回回答書p.2の5.)
この説明によれば、会社は「退職書類の提出がなかったため手続きができなかったが、労働者の不利益を考慮してやむを得ず自己都合退職として処理を進めた」ことになります。また同回答書では、健康保険証等が返送されていることから「合意退職は有効に成立していると判断している」とも主張しています。
2. 客観的記録による反証①:会社から本人への「手続き留保」の通知
しかし、退職日直後の2021年8月19日、総務部長から労働者宛に送信されたメールには、以下の内容が明記されていました。
【客観的事実:8月19日 総務部長からのメール抜粋】 「昨日壬生町役場の住民課のご担当から さんの退職日の照会のお電話がありました。(国保の切り替えの件だと思います) 当方からは『退職日は8/17の予定ですが、書類の送付がないためまだお手続きができていません』と回答せざるを得ず(中略) 今後の さんご自身の諸手続きにも支障をきたしてしまう恐れもあり、早急な書類の整備が必要となります。」(引用:2021年8月19日メール)
会社側は、労働者の国民健康保険切り替えという治療に直結する公的手続きに関し、役場から直接照会を受けていたにもかかわらず、「会社が用意した退職関連書類が提出されていない」ことを理由に、事実上、自ら手続きを『停止』させていました。
3. 客観的記録による反証②:第三者(役場)に語った「未確定」という実態
さらに決定的な矛盾を示すのが、同じく8月19日に壬生町役場住民課から労働者本人に送信されたメール記録です。役場担当者は、会社(小山支社)に直接電話で確認した内容を以下のように記録しています。
【客観的事実:8月19日 壬生町役場からのメール抜粋】
住友生命保険相互会社小山支社様に退職日確認のお電話をさせていただきました。以下、要点をまとめます。
・8月17日に退職しているのは会社も認めている。
・しかし病気退職として事務処理を進めており、その処理に必要な書類がそろっていない。
・病気退職として処理をした場合、退職日が8月17日よりさかのぼる可能性がある。
・退職日を決定するのは本社のため、支社が決定することはできず、時間がかかる。
(引用:役場メールとは)
この役場の記録が示す事実は極めて重大です。 会社側は、第三者である自治体に対して 「退職日が確定していない(さかのぼる可能性すらある)」「本社が決定するため時間がかかる」 と明確に説明しています。 この時点で退職時期が未確定であると会社自らが説明している以上、 事後の回答書における「(健康保険証等が返却された時点で)合意退職は有効に成立していると判断している」という主張は、客観的記録と全く整合しません。
4. 決定的な矛盾:「退職届なし」での自己都合退職の強行
最終的に被災者は、会社の用意した退職関連書類(合意退職を認める書類)を一切提出しませんでした。それにもかかわらず、 会社側は前述の回答書にある通り、1ヶ月以上が経過した9月になって 自己都合退職と判断して 離職票の発行を強行しています。
役場に対しては「病気退職として処理を進めており、退職日は未確定である」と説明して保険切り替えの手続きを留保させ、他方で労働者本人には「早く会社指定の書類を出さないと諸手続きに支障をきたす」と要求する。 そして 最後は、本人の退職届等の書類が一切なくても、会社の一存で自己都合退職として処理を終わらせるという矛盾。
この一連の記録は、離職票の発行遅延が単なる事務上の遅れなどではなく、労働者から「自己都合退職(合意退職)」の書面を取り付けるために、健康保険の手続きをあえて留保していたという不適切な労務管理のプロセスを、会社自身の説明によって自ら証明するものとなりました。
結論
本来であれば、こうした「退職届がないままの自己都合退職処理」やそれに伴う離職票の遅延については、労働行政が間に入って厳正な調査を行い、必要に応じて是正勧告等の指導を行うべき事案です。しかし、労働行政が独自の調査を停止し、事実の認否を回避する企業側の姿勢を許容してしまっているため、法律が予定する労働者保護の機能は失われています。
しかし、被災者が莫大なエネルギーを費やして残したメールや、自治体担当者が記録した公的な記録という客観的証拠は消えません。会社が主張する「丁寧に対応した」という建前は、彼ら自身が第三者に対して行った説明記録によって、完全に論理的破綻を示す証拠として記録されることになりました。