―― 公式回答書から読み解く「休業否認」の論理的構造
1. 勤労部回答書が示す「休業」の全面否認
労働基準監督署により、被災者は「700日間の就労不能(業務上負傷)」として公的な労災認定を受けています。 しかし、住友生命勤労部は労働組合宛ての第2回回答書(2024年11月27日付)において、以下の通り主張し、業務による休業の事実そのものを全面的に否認しています。
QUOTE
- 「〇〇氏から労災請求・休業の申し出はありませんでした。」
- 「退職までの期間は、傷病欠勤はなく有給休暇を取得しており、有給休暇取得後そのまま退職されましたので、診断書は返送しております。」
- 「最終在籍日につきましては、前日にすべての有給休暇を消化してしまったことから、欠勤として無給扱いをしたにとどまります。」
住友生命勤労部_第二回回答書
すなわち会社側は、国が認定した長期の就労不能期間について、「本人が勝手に有給を消化し、有給が尽きた翌日に欠勤して退職したにすぎない」という見解を公式に維持しています。
2. 判例が示す適法な解決ルート(打切補償)との乖離
労働基準法第19条は、業務上傷病による療養のための休業期間中の解雇を禁じています(解雇制限)。 しかし、最高裁判例(専修大学事件・平成27年6月8日)により、例外として、 使用者が労働基準法第81条に基づく「打切補償(平均賃金の1200日分)」を支払えば、この解雇制限を適法に解除できる というルールが確定しています。
巨大な資金力を持つ同社にとって、一労働者に対する1200日分(約3年半分)の補償金は、経営上極めて軽微な金額です。それでもなお、会社がこの適法な補償ルートを選択せず、あえて診断書を返送し「有給消化からの事故欠勤」という異例の処理を強行したのはなぜでしょうか。
3. 休業の自認が引き起こす「3つの主張」の連鎖的崩壊
その理由は、1200日分の打切補償を支払うためには、前提として 会社自身が「業務上の疾病による休業が存在すること」を公式に認める(自認する)必要が生じる ためです。 もし会社が休業の事実を認めてしまえば、同社がこれまで労働行政等に対して行ってきた以下の「他の主張」が、論理的にすべて成立しなくなります。
- 「過重な業務はやらせていない」という主張の崩壊: 業務起因による休業を認めれば、上肢障害等の配慮事項(重量物運搬免除)に反して業務を行わせていた事実を認めることになり、安全配慮義務違反が客観的に確定します。
※既に「やらせていない」とされていた業務により労災は認定されているのですから崩壊しています。 - 「死傷病報告の遅延ではない」という主張の崩壊: 同回答書で会社は「業務と休業の因果関係については判断がつかないものでした」として労働者死傷病報告の遅延を否定していますが、休業を自認すれば、労災発生当時から事態を把握していたことになり、提出義務違反(いわゆる労災隠し)の指摘を免れなくなります。
※死傷病報告が存在すること自体に矛盾が生じています。 - 「合意に基づく自己都合退職である」という主張の崩壊: 業務上の休業を認めれば、退職は労働基準法第19条(解雇制限)の対象事案となり、「会社都合退職(事業主都合)」としての処理を余儀なくされます。
※合意でないことはメール履歴によって客観的に確認可能です。
4. 結論:事実の認否を回避し続ける論理的必然 会社都合退職や重大な労働法令違反が公的に確定することは、国の「雇用関係助成金支給要領」等に基づき、グループ全社規模での助成金支給停止措置や、それに紐づく税制優遇の喪失といった甚大なペナルティの引き金となります。
したがって、住友生命が1200日分の打切補償の支払いを拒絶し、「休業の申し出はなかった」「事故欠勤にとどまる」と強弁し続けなければならない理由は、単なる金銭的な出し惜しみではありません。 それは、 「休業の事実を少しでも認めてしまえば、連座的な法令違反が確定し、助成金維持という最大の防衛ラインがドミノ倒しに崩壊してしまう」という、企業としての逃げ場のない論理的必然 に裏打ちされた対応であると推認されるのです。