—— 当時のメールが浮き彫りにする、退職処理の不可解な初期対応
住友生命小山支社において発生した、障害者雇用労働者の「700日の就労不能」という重大な労災事案。この退職経緯について、企業側は「業務上の疾病を理由とした休業の申し出はなかった」「本人が有給休暇を取得したのちの合意退職である」と主張し、現在に至るまで 事実の認否 を回避し続けています。
しかし、退職手続きの直前に交わされた「客観的なメール」を検証すると、企業の主張とは全く異なる実態が浮かび上がります。職員からの切迫した「命のSOS」に対し、会社側はどのように応答し、事案を「個人の年休消化」へと収束させていったのか。
開示された当時のメールの文面のみに基づき、その不可解な初期対応のプロセスを検証します。
1. 労働者からのSOS:「再三の報告」と「手遅れになる」という宣告
2021年7月11日、被災職員から総務部長宛に送信されたメールには、以下の内容が明記されていました。
【7月11日 被災職員からのメール抜粋】 「再三、業務部長にもお伝えしているとおり、体調不良を理由として会社を休ませていただきます。」 「かかりつけ医から『手遅れとなった場合、当院を訴えない。』と記載した念書に署名しなくてはならないほど、体調は悪化しております。」 「限界です。明日より治療に優先させていただきたく、ここに再度申出いたします。」 (引用:2021年7月11日メール)
ここで重要なのは、この事態が突然発生したものではなく、 「再三、直属の上司(業務部長)に伝えていた」という事実が明記されている点 です。また、その内容は単なる体調不良ではなく、「手遅れになる」という生命や今後の身体機能に関わる重大な危機についての訴えでした。
2. 会社側の応答:「原因調査の不在」と「年休」への誘導
翌7月12日、この重大なメールを受けた総務部長からの返信は、以下のような内容でした。
【7月12日 総務部長からの返信メール抜粋】 「頂いたメール内容を確認しました。」 「もしかしたら不在中の業務についてお聞きすることもあるかと思いますが、体調面で可能な限りでいいので教えてください。」 「診断書が添付されていますが、期間の記載がなく、本日からの勤惰は、当面年休対応でいいでしょうか?」 (引用:2021年7月12日メール)
労働者の生命に関わる重大な訴えと、「再三伝えていた」という安全配慮義務に関わる指摘を受けた使用者としての初期対応として、この文面は極めて不自然です。
通常であれば、「業務部長から聞いていないが、どういうことか」「どのような業務が負担になっていたのか」といった事実関係の確認が行われるべき局面です。 しかし、そうした驚きや原因調査に関する記載は一切ありません。 むしろ、事の重大性には全く触れることなく、直ちに 「当面年休(年次有給休暇=労働者の私的な休暇)対応でいいでしょうか?」と、私傷病による個人の休暇枠組みへの落とし込み を図っています。
3. 「年休処理」が作り出した、会社の防衛線
この7月12日の「年休対応でいいか」という事務的な応答は、後に会社側が自らの責任を否定するための「最大の根拠」として用いられることになります。後の労働組合等に対する回答書において、会社側は以下のように主張しています。
【会社側の後の主張(勤労部回答書)】 「退職に関する一連のやり取りの中で氏から労災請求・休業の申し出はありませんでした。」 「退職までの期間は、傷病欠勤はなく有給休暇を取得しており、有給休暇取得後そのまま退職されましたので(中略)合意退職は有効に成立していると判断しています。」 (引用:住友生命勤労部第二回回答書p.2)
客観的記録である7月11日のメールには、「限界であり治療を優先したい」という切実な休業の申し出が存在します。にもかかわらず、会社側が「休業の申し出はなかった」「有給休暇を取得しただけだ」と主張せざるを得ないのは、他ならぬ会社側自身が、翌12日のメールでこれを「年休の消化」として処理したという外形的事実を、自らの適法性を主張するための唯一の拠り所としているからです。
重大な健康被害の訴えを「個人の年休消化」として処理したことは、結果として、労働保護法制(療養中の解雇制限など)の適用を回避し、会社に安全配慮義務違反が及ばない「自己都合による合意退職」という形式を成立させるための、決定的な布石として機能しています。
結論
住友生命は「休業の申し出はなく、合意退職である」と説明しています。 しかし、当時のメール記録を客観的に読み解けば、被災者からの「手遅れになる」という悲痛な訴えと「再三の報告」という事実に対し、適切な原因調査を全く行わないまま、速やかに「年休処理」へと誘導した会社の対応 が明確に記録されています。
この不自然な初期対応の記録は、会社側の「丁寧に対応した」という説明と決定的に矛盾しています。公的な労災認定(700日の就労不能)が下った現在において、客観的証拠に基づく調査を行わず「年休による合意退職」の形式を装いながら事実関係の評価を留保し続ける同社の姿勢は、労働契約法上の安全配慮義務の観点から極めて重大な疑義の存在を記録に残すものとなりました。