—— 証拠を揃えた被災者の訴えは、なぜ「処理終了」とされたのか ——   国は最高権力者である内閣総理大臣の国会答弁において、「賃金不払などの法令違反は決して許してはならない。企業全体で同様の違反が認められる場合は本社に立入調査を実施して全社的な改善を図らせ、悪質な企業に対しては書類送検を行うなど厳しく対応していく」と、労働行政による厳格な法執行とペナルティの基本方針を広く社会に向けて公言しています(平成29年内閣総理大臣答弁1

障害者雇用の職員に対する違法な退職処理や未払い賃金問題について、住友生命側は文書において「労働関連法令に準拠した支給を行っている」「労基署とのやりとりについても誠実に対応している」と主張し、自らの適法性を強弁しています。
たしかに、本件において企業が行政指導や罰則を受けた記録は存在しません。
しかしそれは、「企業の行為が適法だったから」ではありません。 「労働者が公的に確定した労災事実などの客観的証拠を提示して調査を求めたにもかかわらず、現場の行政機関が、行政府の長(内閣総理大臣)が国会で明言した『本社への立入調査や書類送検などの厳格な対応』という国家としての約束を意図的に破棄し、独自の調査権限の行使を完全に放棄したから」 にほかなりません。

1. 労働者が行政に提示・要求した「反論不可能な客観的証拠」

被災労働者は、自らの被害を裏付けるため、以下の客観的証拠(メール履歴や時系列の矛盾)の存在を各行政機関に提示し、調査を求めていました。

  • 700日に及ぶ「労災認定(休業補償支給決定通知書)2 企業側が「やらせていない」と主張した業務が原因で長期間の就労不能に陥ったことを証明する、労働基準監督署自身が認定
  • 退職の「合意不在」を示すメール記録 企業が主張する退職日(2021年8月17日)以前の7月27日時点で、労働者が「役所にご相談させていただいた後、回答をさせていただきたい」と退職手続きへの同意を明確に保留していた、企業側住友生命とのメール履歴(7月27日メール全文
  • 1ヶ月以上遅延した「離職票の新規発行履歴」 労働者本人がハローワークへ再交付申請を行ったことで発覚した、「退職日から1ヶ月以上経過し初めて新規発行された」という雇用保険法第7条違反を裏付けるシステム上の記録
  • 労働時間の立証を求めた「IDカード等の入退室記録」の調査要求 PCのログオフを強制された後に業務を行っていた事実を証明するため、労働者は「IDカードによる入退室記録」など、企業側が保有する別システムでの客観的記録の提出を企業側に求めるよう労基署へ要求した

2. 証拠を前に「目を閉じた」3つの行政機関

これら「言い逃れのできない証拠と調査要求」を突きつけられた労働行政は、法に基づく調査・指導を行うどころか、それぞれ以下の異常な論理で「不作為(黙殺)」を決め込んだ。

① ハローワーク(雇用保険)による「推測での擁護」 ハローワーク栃木は、「退職届がない」「離職票の発行が1ヶ月遅れている」という明白な不備と法違反の証拠を突きつけられながら、強力な調査権限(雇用保険法第76条・79条)を一切行使しなかった。そして「(会社側が)退職者と連絡がつかなかったからじゃないですか」と自らの推測で企業の不備を代弁し、5ヶ月間放置した末に企業の「自己都合退職」という主張を実質的に受容した。

② 労働基準監督署による「権限放棄」と「算定根拠の曖昧化」 栃木労働基準監督署は、未払い賃金の証明となる「IDカード等の記録」の提出を企業に求めるよう労働者から要求されたにもかかわらず、労働基準法第101条に基づく強力な調査権限(臨検や帳簿提出要求)を行使しなかった。
あろうことか、「(住友生命から)見せてもらえませんでした」という理由で、住友生命が未払い賃金の一部を一方的に算定して法務局へ「供託」した事実をもって、民々の争いで管轄外として調査処理を終了させた。
さらに悪質なのは、この「行政が独自の調査を放棄し、処理終了とした後」に、700日の労災認定が下りたことにより、未払い賃金の実態調査を自ら打ち切ってしまっていたため、本来であれば厳密に計算されるべき「労災の休業補償給付の算定根拠(平均賃金)」すらも、あやふやなまま処理が進められた。 その結果、被災労働者への深刻な経済的な二次被害を引き起こした。

③ 労働局(障害者虐待)による「不明=問題なし」へのすり替え 栃木労働局は、労災認定(業務による負傷)や未払い賃金の事実が存在し、これらが経済的・身体的虐待に該当し得る客観的状況があるにもかかわらず、十分な調査を行わないまま「虐待の有無については確認できなかった(不明)」と判断しました。「不明」であるなら徹底的に調査するのが行政の義務ですが、労働局はこれを実質的に「虐待なし(問題なし)」として扱い、処理を終了させた。

結論:「証拠不足」ではなく「調査権限の意図的封印」

本件事案が解決しなかったのは、労働者の主張が弱かったからでも、証拠がなかったからではない。むしろ、ここまで証拠を揃えて行政に提出できるであろうか。

証拠は揃っており、調査の糸口も明確に提示されていた。しかし、それらに基づいて行政が権限を行使し、大企業の労働関係法令違反(未払い賃金、解雇制限違反、届出遅延等)を公に確定させてしまえば、企業には「助成金の全社的停止・返還」、更には公共での入札資格停止(不動産賃貸等)という巨額のペナルティが自動的に発動してしまう仕組みになっています。労働行政の「判断停止」がもたらす助成金制度の死角

労働行政が行ったのは、事実の調査ではありません。 「これ以上調査を進めれば企業の致命的な違法行為を認定せざるを得なくなるため、IDカード記録等を見ないことで事態を矮小化し、企業が強行した『供託』を隠れ蓑にして自らの調査権限を封印し、『処理終了』を宣言した」 のです。 調査権限を放棄した結果、労災の補償額すら根拠のない金額のまま処理された。
これこそが、日本の労働行政のリアルな機能不全と、「企業は適正に対応している」という虚構が作られる真のからくりです。

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Footnotes

  1. 安倍総理答弁

    平成29年1月31日 参議院予算委員会

    関連:労働基準監督署の立ち入り調査とは

    元記事へのリンク

  2. 700日の就労不能を示す労災支給決定通知書(一部公開)