労働基準監督署が「必要な調査等の対応は全て完了している」と処理を終了した案件が、別制度の進行によって再び行政のシステム上に現れた際、行政がいかにして実質的な権限行使を回避するのかを示す客観的記録が存在する。
1. 労災請求を経由した「元申告人」の再出現
管轄の栃木労働基準監督署は、2022年3月28日時点の内部記録において、被災労働者を「既に終了した申告の元申告人」と定義し、事案を終了扱いとしていた。 しかし、新年度でもある約5ヶ月後の2022年8月15日作成の相談票には、以下の通り記録されている。
【2022年8月15日 労基署相談票の記載】 「令和3年度第70号申告の元申告人より再度の相談あり。なお、当該元申告人は労災請求も行っており、労災課からの説明を受けた後、本職が対応したもの。」
「対応完了」として処理されたはずの事案が、労災請求という別ルートを経由することで再び監督署の対応業務として出現し、矛盾した状態のまま行政内部で処理が再開されている。
2. 違法申告に対する「何とも言えない」という対応
同日の相談において、被災労働者は 「業務に必要なものを自費で調達していた」「自分以外も自己負担や不当な給与控除をされている者がいる」と、労働基準法違反の疑いが強い具体的事実を申告している。 これに対する監督署の対応は以下の通り記録されている。
【同 相談票の記載】 「業務に必要なものを自費で調達していたという件についての申し出があったが、これについては監督署としては何とも言えないと伝えた。」
20220815労基署相談票
副署長への伝言という記録化
労基署相談票に平然と残された「調査義務の放棄」
本来、労働条件の適法性を監督する権限を持つ行政機関が、具体的な違法行為の申告に対して事実関係の調査を行うことなく「何とも言えない」と判断を留保している。これは、企業側が事実を否認している状態においては、行政が独自の調査・是正権限を事実上行使しない(できない)という構造的な限界を示している。
3. 結論:公文書に刻まれた不作為の記録
行政による実質的な調査が期待できない中、労働者は「このような会社があることを記録しておいてほしい」と要請し、行政側も「情報として記録する」と回答している。
結果として、行政が指導を放棄したにもかかわらず、「住友生命における組織的な自己負担や給与控除の疑い」という生々しい実態が、国家の公文書(相談票)に永久的な記録として保存されるという皮肉な状態が成立している。この文書は、制度が機能不全に陥った際、労働者が事実を歴史に留めるために行政記録を「証拠保全の装置」として活用した実例と言える。