700日の就労不能期間中に行われた「退職処理」の違法性

労災認定により、被災者が「700日間」の就労不能状態にあった事実は公的に証明されている。しかし、その療養期間の最中に、会社側は退職処理を強行した。

■ 会社側の主張と客観的事実の乖離

項目会社側の説明(住友生命勤労部)労災認定による客観的事実
休業の状態「業務上の疾病による休業ではなかった」業務上負傷による700日の就労不能
退職の経緯「早期の退職要望を受けた(合意退職)」解雇制限期間中(労基法19条)の離職
合意の根拠「保険証等の返送があった」貸与物の返還は合意の証明にならない
住友生命勤労部_第二回回答書 

■ 労働基準法第19条の壁

労働基準法第19条は、労働者が業務上の負傷・疾病で療養のために休業する期間中の解雇を厳格に禁止している。法定免責事由(天災事変等)および労基署長の認定なき退職処理の強行

労働基準法第19条(解雇制限)

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。

会社側は「合意退職である」と主張を続けるが、判例(アイフル/旧ライフ事件など)によれば、例え形式が合意退職であっても、実質的に解雇制限を回避する手段として用いられている場合、その正当性は厳しく問われる。

■ 行政が見逃した「脱法行為」の可能性

行政の不作為

行政が「処理終了」としたことで、以下の核心的論点が検証されないまま放置されている。

  1. 解雇制限の潜脱: 「合意」という形式が、労基法19条の解雇制限を回避するための隠れ蓑にされていないか。

  2. 事実と異なる説明: 会社側が当時「業務上疾病ではない」と説明していたことと、後の労災認定結果との致命的な矛盾。

  3. 自由意思の欠如: 700日の就労不能と判定されるほどの心身状態で、果たして「自由な意思に基づく退職合意」が成立し得るのか。


関係法令

労働基準法第19条(解雇制限)

第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。 ② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

解雇制限-労働基準法第19条https://laws.e-gov.go.jp/

労基法19条(解雇制限)


合意退職でも事後的な労災判明でも解雇制限は回避できないとする判例

本件と同様に、療養期間中の退職については、合意の有無にかかわらず保護が及ぶとする判例が存在する。

アイフル(旧ライフ)事件.pdf
独)労働者健康安全機構https://www.johas.go.jp/

大阪高裁平成24年12月13日判決(労判1072号55頁) 大阪地裁平成23年5月25日判決(労判1045号53頁)

「事後的な労災判明でも退職は無効」という確立された法理

琉球大学学術リポジトリ

私傷病との認識の下になされた業務上疾病罹患者の休職期間満了退職扱いの効果と安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務の範囲 :アイフル(旧ライフ)事件大阪高判平24.12.13労判1072号55頁(原審:大阪地判平23.5.25労判1045号53頁

https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/record/2007724/files/No91p023.pdf