700日の就労不能認定と「有給休暇」処理の構造的乖離
—— 企業が提示した退職理由と、国家の「公的認定」の不整合
住友生命は、労働者が提出した「診断書」を返送し退職処理を進めた経緯について、労働組合宛ての公式回答書において次のように説明し、自らの適法性を主張しています。
【住友生命勤労部からの回答】 「退職に関する一連のやり取りの中で氏から労災請求・休業の申し出はありませんでした。」 「退職までの期間は、 傷病欠勤はなく有給休暇を取得しており 、有給休暇取得後そのまま退職されましたので、診断書は返送しております。」
すなわち、「本人は業務上の傷病で休業したのではなく、有給休暇を消化して退職したため、病気療養の証明である診断書は不要であった」という主張です。しかし、当時の支社総務部長が送信した実際のメールと、その後に労働基準監督署が下した「労災認定」を照らし合わせると、この会社側の主張と客観的事実との間に重大な乖離が存在することが確認できます。
1. 「休業の申し出はなかった」という主張を自壊させるメール記載
労働者は当時、体調の悪化を訴え 「明日より治療に優先させていただきたい」と申し出た上で、診断書を会社に提出していました。しかし、会社側(支社総務部長)は次のようなメールを送信して診断書を返送しています。
【2021年7月26日付 支社総務部長からのメール】 「尚、 年休消化後のご退職(連続での傷病欠勤とならない)なので、診断書は特に必要ありません。 先にお送りいただいた分と併せご返送します。」
会社側は後の回答書で「休業の申し出はなかった」と主張しています。しかし、もし本当に労働者からの申し出が単なる「私的な有給休暇の取得」であったならば、会社側がわざわざ「連続での傷病欠勤とならない」と言及し、理由をつける必要は全くありません。 同メールに「傷病欠勤」という言葉が自発的に記されている事実こそが、 会社側が「労働者から傷病を理由とした休業(欠勤)の申し出と診断書を受けていた」ことを当時明確に認識していた決定的な証拠 です。
労働基準法には、業務上の傷病で休業する労働者を守るため、 「療養期間中およびその後30日間の解雇の絶対的禁止(第19条:解雇制限)」 と、 「休業中の平均賃金60%の支払義務(第76条:休業補償)」 という2つの強力な強行法規が存在します。
労働基準法においては、業務上の傷病で休業する労働者を守るため、 「療養期間中およびその後30日間の解雇の絶対的禁止(第19条:解雇制限)」 と、 「休業中の平均賃金60%の支払義務(第76条:休業補償)」 という強行法規が定められています。 会社側は診断書を受理し、「傷病欠勤」として処理してしまうと、これら法規制の適用対象となることを認識していたからこそ、「有給休暇として処理したから、連続での傷病欠勤にはならない(法適用を回避できる)」という理屈をわざわざ文字にして残し、不都合な証拠である診断書を返送するという外形を作り出したものと推認されます。
2.事後的な公的認定による前提の崩壊
会社が「傷病欠勤はなく有給休暇を取得しており」と説明し、診断書を返送したまさにその期間を含め、国の行政機関である労働基準監督署は、後に 「2021年7月13日から700日間に及ぶ就労不能(休業補償給付)」 を労災として公的に認定しました。
会社が「私的な有給休暇」として処理した期間は、国によって 「業務上負傷による客観的な就労不能期間」 であると認定されました。会社が「不要である」として返送した診断書の対象期間は、国が「労災による休業」を認めるための客観的事実として評価される状態となったのです。
3.結論:「丁寧な対応」と客観的実態の乖離
「700日の労災認定」という公的判断が下された現在において、「休業の申し出はなく有給休暇であった」という社内記録上の建前は、客観的実態と整合しません。
客観的記録が示している事実は、 「国が『700日もの就労不能状態である』と認定するほどの重大な労災を負った労働者からの申し出にに対し、会社が『連続での傷病欠勤とならない(有給休暇扱いにする)』と話をすり替えて診断書を返送し、結果として退職手続きを進めた」 という経過です。
会社自らが送信した「(連続での 傷病欠勤 とならない)」という一文は、労働者が直面していた傷病の実態を会社が当時から認識し得たことを示す記録であり、労働基準法が定める 休業補償義務(第76条)と解雇制限(第19条) の適用をめぐる同社の処理の妥当性に、重大な疑義を残す客観的証拠となっています。
「休業の申し出はなかった」という主張の自壊
もし本当に「休業の申し出」がなかったのなら、会社から「連続での傷病欠勤とならない」という言葉が出るはずがありません。この一文は、労働者が「傷病の事実(休業の必要性)」を会社に訴え出ていたこと、そして『傷病による休業』という労働者からの訴えが存在していた事実と、実際に進められた『有休消化』という処理の間に、客観的な矛盾が生じていることを自ら証明している記録です。