供託要件との関係から見た本件手続の検討
住友生命は、算定根拠を明示しないまま金銭を供託し、これをもって「適切で丁寧な対応」と説明しています。
しかし、本件手続については、民法上の供託の要件との関係において、 「適法な弁済の提供」としての要件を具備しているかについて、客観的な疑義 が存在します。
■ 何が問題か
- 賃金額の確定過程が不明 数値のみが提示されており、労働時間の認定方法や算定過程が示されていない。 → 内容の検証ができない状態となっている。1
- 未払金からの控除処理と税法上の取扱いの不整合 所得税法上、源泉徴収義務は「現実に金銭を支払う時」に発生する(タックスアンサーNo.25092等)。 → 支払いが完了していない未払い金から、源泉徴収分等として控除した上で供託を行うことは、税務および会計処理の原則と整合しない。
- 支払が条件付きとなっている 給与口座を把握しているにもかかわらず、算定根拠を示さずに「振込依頼書」への署名・提出が求められている。 → 支払が、会社側が算定した金額への同意を推認させる書面の提出に依存する構造となっている。3
CAUTION
この手続に応じた場合、提示された金額について当事者間で争いがないものとして扱われる可能性がある
⇒判例
■ 供託要件との関係
1. 受領拒否該当性(供託原因の存否)
被災者は未払い賃金の支払自体は一貫して求めており、問題となっているのは「算定根拠の開示」です。 算定根拠を示さないまま、会社が一方的に提示した数字への同意(署名)を条件とすることは適法な「弁済の提供」とは言えません。
算定根拠の検証ができない状態での条件付き提示に応じないことをもって、「弁済の受領拒否」として供託原因を構成することには法的な疑義が生じる。
2. 支払条件(振込依頼書)の問題
振込依頼書の提出が前提とされているが、
- 書面の内容・法的性質は明確でない
- 算定根拠も示されていない
このため、
内容を検証できない状態で署名を求めること自体が、弁済の受領判断を困難にする条件となっている。
3. 供託額の充足性(遅延利息に関する法令解釈の齟齬)
供託が有効となるためには、遅延損害金を含めた「債務の全額」が提供されている必要があります。
会社側は「賃確法施行規則第6条第4号の『合理的な理由』があるため遅延損害金は支払わない」と主張しているが、同号の免除要件は 「裁判所又は労働委員会で争っていること」 です。本件は裁判等に係属しておらず、要件を満たしていません。
同施行規則の係争要件を満たさない状態で遅延損害金を免除・控除しているため、「債務の本旨に従った全額の提供」に該当するかについて疑義が生じている。
4. 手続の経過と「4ヶ月の空白」
- 供託日:2023年2月15日
- 本人への通知日:2023年6月16日
供託から通知まで「4ヶ月」もの不自然な空白が存在する。この期間、被災者は労働基準監督署に対して再度の監督指導を求め続けていた。なぜ2月に供託したものを、6月に通知してきたか?
この供託手続きは、労働行政機関に対し「支払手続きが完了した」との外形を示すことで、実質的な指導や介入を終了させる結果をもたらしている。
■ 補足:供託制度
供託は、一定の要件のもとで債務の履行に代わる制度であり、一方的に算定した未払賃金の支払手続を事後的に完了させるための制度ではありません。
また、本件においては、
供託原因となる事実関係(有効な弁済の提供と受領拒否)について、開示資料上は明確に確認できず、要件を欠いている。
■ 参考(判例)
岩瀬プレス工業事件
金銭受領と書面署名が、権利放棄や和解成立の事情として評価された裁判例
■ 結論
本件供託については、
- 受領拒否該当性(供託原因の存否)
- 支払条件の適切性(同意を推認させる条件の付加)
- 供託額の充足性(遅延利息及び源泉徴収の取扱い)
の各点において、民法上の供託要件を満たしていません。
客観的な算定根拠や法令上の要件を満たしているか疑義の残る供託手続が、直ちに債務の消滅をもたらすものと評価することは困難である。
■ 一文で言うと
検証できない金額と条件に基づく供託が、直ちに債務の消滅をもたらすとはいえない
——供託要件との関係から見た本件手続の検討
住友生命は、算定根拠を明示しないまま金銭を供託し、これをもって「適切で丁寧な対応」と説明しています。
しかし、本件手続については、民法上の供託の要件との関係において、複数の検討すべき論点が存在する。
補足(重要)
なぜ「振込依頼書」に署名することにそこまで躊躇する必要があるのか
本件では、支払額の算定根拠が示されていないため、提示された金額の内訳や対象範囲を確認することができません。
このような状態では、 後になって当該金額の内訳や性質について追加説明がなされたとしても、その当否を検証することが困難 となります。
たとえば、当該金額にどのような費目が含まれているのかが明確に区分されていない以上、 賃金以外の要素が含まれているか否かについても、事後的に争いが生じる余地があります。
したがって、このような状況で書面への署名に応じることは、提示された金額およびその内訳について異議のないものとして(権利を放棄したと)扱われる可能性を否定できず、慎重な判断が必要となるのです。
WARNING
当該金額の性質について明確な区分が示されていない以上、その範囲や評価について後から異なる整理が提示される可能性は排除できない。
これまでの企業側の対応経過(退職の合意や有給のすり替え等)を踏まえると、この点が現実に不利益として問題となる蓋然性は否定できない。