8月24日メールが崩す『8月17日合意退職』の客観的矛盾
本件は、労働基準法第19条(解雇制限)が適用されるべき事案です。
労働基準法19条は、業務上負傷・疾病による療養休業期間中およびその後30日間の解雇を原則として禁止する強行規定である。もっとも、形式上「合意退職」「自然退職」「休職期間満了退職」とされている場合であっても、その実質が解雇制限を潜脱するものである場合には、同条の趣旨に照らして無効と評価され得る。 住友生命側の弁明を記録の公平性の観点からあえて記録しています。
1. 退職日を過ぎてから行われた「条件付き退職予告」の客観的矛盾
会社側は、退職日とする「8月17日」から1週間が経過した8月24日のメールにおいて、次のように説明しています。
【2021年8月24日付 会社側からのメール】 「9/2までの返送がなかった場合は(中略) 8/17付で退職手続きを行うことになります。」
会社は「8月17日に双方合意の上で退職した」1と主張していますが、それならば、なぜその1週間後である8月24日の時点で「(未来の)9月2日までに書類がなければ、退職手続きを行う」という条件付きの予告を行っているのでしょうか。 すでに退職の合意が成立し、退職日が到来しているのであれば、このような未来に向けた条件付きの通告を行う必要など一切ありません。
8月24日メールは、8月17日時点で合意退職が完成していたという後日の会社主張1と整合しません。少なくとも、会社が8月24日時点でなお退職処理を将来条件つきの問題として扱っていたことを示す客観資料であり、『8月17日の合意退職』という説明の説得力を失わせます。
2. 同意留保の意思表示と「みなし同意」の不成立
被災労働者は、会社が退職日と主張する8月17日より前の「7月27日」の段階で、退職関係書類について 「役所にご相談させていただいた後、回答をさせていただきたいと考えております」 とメールで明確に伝え、退職手続きへの同意を留保する意思表示を行っています。2021年7月27日メール全文
労働者が明確に同意を留保している以上、会社が一方的に設定した期限までの書類返送がないことのみをもって『双方合意』が成立したとするのは、客観的記録と整合しない。法的に成立し得ないこの「みなし同意」の主張は、実質的な一方的退職処理を合意退職の外形に整えようとするものであり、結果として行政に対し「当事者間に争いがある」という状況を作り出し、法執行を困難にする効果を生んでいる。
3. 雇用保険法の届出期限(10日以内)との関係
なぜ会社は、8月24日になって「8月17日付で退職させる」と、過去の日付を遡って指定したのか。
雇用保険法第7条は、事業主に「離職の翌日から10日以内」の離職票(資格喪失届等)の提出を義務付けている。会社がこのメールを送信した8月24日の時点では、本来であれば「8月17日退職」の手続き期限(8月27日)が目前に迫っていた。しかし、会社は労働者からの退職願を受理していないため、「自己都合退職」としての適法な行政手続きを進めることが困難な状態にあった。
すなわち、「労働者が期限(9/2)までに書類を出さなかったから、やむを得ず8/17付で処理をした」という主張は、自らの法定手続きの遅滞(または不能)の理由を労働者に帰責させるための事後的な説明であると推認される。
4.結論:8月24日付メールは「合意不在」の客観的証拠である
住友生命は「双方合意の元で設定した」と主張しているが、客観的記録が示しているのは合意の成立ではなく、「合意の不在」である。
「労働者が同意を明確に保留している状態において、会社が一方的に期限を設定し、期限の到来をもって『合意した』とみなした事実」 、そして 「8月24日の時点で退職が未成立であることを自認する内容のメールを送信しながら、過去の『8月17日』を退職日と遡らせて処理を強行した事実」 である。
「退職日を過ぎてから、過去の日付での退職を条件付きで予告する」という時系列の矛盾が存在する以上、会社が主張する「8月17日の合意退職」は客観的証拠と整合せず、法的に成立しているとは認められない。